「高齢の親が運転を止めてくれない」この悩みを誰に相談しますか?
実際に高齢者講習を担当していた時に「無事故だから安全運転してる」という声をよく聞いたのですが、本当にそうでしょうか?
周囲の車が避けてくれているのに気づかないだけの、ただの偶然かもしれません。怪しい運転の高齢ドライバーを見たら皆さんもそう感じると思います。しかし、アンケートなどでは運転に自信をもつ高齢者は7割を超えてます。
なぜ自信があるのかというと、事故をしてないのが唯一の根拠であり、それが根拠となって安全運転だと言い、安全運転できてるから自信があると言い、なぜ自信があるか…と堂々巡りになるわけで論理的に説得できません。
当然、今までと変わりなく安全運転できてるつもりだから、年齢だけを理由に免許返納を迫れば自分を否定された高齢ドライバーが反発して怒り出すのは当然なのです。
自信が無いと答えた3割の方は、おそらく問題ありません。ご自身の現状を把握できているので、もう危ないと思えば自ら免許を返納されることでしょう。
問題があるのは7割の自信ある派の方たち。
加齢による衰えが運転に影響してリスクが高くなっていることを自覚できてない、もしくは認めたくないから自信を持つのですが、運転という行為が常時危険な状態が続くわけでなく、運が良ければ何事も起こらないときの方が多かったりするので厄介です。だから事故をするのは運が悪いからと考えてる人も居ます。
なるほど、一般ドライバーの多くに見られる自己流の運転でも、反射神経の良かった若いときなら何とかなっていたかもしれません。しかし、今の年齢でもそのまま続けていることによりキケン運転になってしまう高齢ドライバーが多くなります。
これを運が悪かった…と捉えると、自分には責任が無いわけで自身の運転を省みることはなくなります。
いつ免許を返納すべきか?
では、何歳で免許を返納し運転を止めるべきでしょうか?
以前、高齢者講習で担当したあるドライバーを例に挙げます。
その方はご自身おひとりでマイカーを運転して講習に来られました。かなり高齢と見えるのは確かですが、比較的安定して高齢者としては平均的な運転をされていました。良い結果では無かったにせよ認知検査も大きな問題はなく、速度に気を付けて馴染みのある近場だけ運転するようにしましょうとの意見をつけてお帰りいただきましたが、実はこの方102歳でした。最初に免許証を確認して驚愕したものです。
そして講習の終わりに「次また来るな~」と言って帰って行かれました(笑)
かたや、初めての講習受講で70歳になったばかりのはずであるにも関わらず、同乗者(現在は単独走行)が悲鳴を上げるような見るからに危険な運転をしている人を何人も見ました。もちろん本人は安全運転には自信があると主張します。
「もう運転は止めて免許を返せ」と言いたいのですが、ご存知でしょうか? 実をいうと高齢者講習では免許返納を促してはいけないことになっているので言えないのです。
さて、この2者の違いはどこから来るのか?
認知機能の問題は別として、個人のフィジカルな部分(視力や反射神経など)の違いも確かにあるのでしょうが、元々交通法規に従って走る運転習慣があるかどうかが非常に大きいと感じています。つまり高齢になっても若い時と同じ自己流の運転を続けるのが危険なのです。これは講習を通して数千人の高齢ドライバーを見てきて確信しています。
皆さんは高齢ドライバーの事故者が必ずしも認知機能に問題がある方ばかりじゃないのはご存知ですね? むしろ講習で問題ないとされた方の方が数が多いため実際の件数では圧倒的に第三分類(問題ないとされた)の方が事故を起こしているのです。残念ながら講習では運転の矯正まではできないからです。
したがって運転免許返納は一定の年齢に達した時…ではなく、次の2つの場合に決断すべきです。
① 認知機能に問題が出たとき
まずはじめに認知機能に問題が出たとき(これは講習で判断できます)で、これについては国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターで認知症を患う高齢ドライバーに運転を止めさせたい家族のためのマニュアル(PDF:2.2MB)を無償公開していますので紹介しておきます。
② ルールに則のっとった運転ができるかどうか
そしてもう一つがルールに則った運転ができるかどうかでしょう。それこそが安全運転の指標なのです。そして、その良否を判断するためには安全運転を評価するプロである教習指導員がマイカーに同乗して診断するのが一番の早道です。
正直にいうと、私たちが高齢ドライバーの運転に「うん、安全運転ですね。まだまだ大丈夫ですよ~」などと太鼓判を押すことはまずありえません。経験上安心できたのは、元警察官や元指導員くらいです。たくさんの事故事例を知ってますので非常に不安に思って診ています。従っていくつも問題点を挙げることになるでしょう。
何しろマイインストラクターネットを通して行う教習は、トラブルを嫌う公安委員会の指導の下で実施する高齢者講習とは違って、縛られるものがありません。個人的な教習ですので、高齢ドライバーには嫌われても良いから言いたい事を言います。危険な運転にはハッキリと指導員個人の意見を進言することができるのです。
なるべくご家族も同乗して問題点を聞いてあげてください。いかに自信のある高齢ドライバーといえども専門家の指摘・意見は無視できません。
そして、私たちの診断を元にご家族で話し合いをしてください。年齢を理由に漠然とした不安を伝えるだけでは納得できなかった方でも、根拠のある指摘を受けた問題を改善できなければ(まずできません)説得に応じてくれるのではないでしょうか?
その結果、仮に今しばらく乗り続けることになったとしても指導員から指摘された注意点を少しでも守ろうと努力してもらうことで事故のリスクは間違いなく減ります。
取返しがつかなくなる前にぜひ!
皆さんご自身のドライバー寿命を延ばすために
また、同乗するご家族にとってもいずれは辿る道です。よく聞いておいて、ご自身でも実践なさってください。「いずれ自動運転になるから高齢ドライバー問題は若い世代には関係ない一時的なことだ」という意見も一部ネットなどで見かけますが、私は懐疑的です。私たちが生きている間に運転者が無くなることは無いと思ってます。
個人的な考えですが、海外の国の一部がそうなっているように高齢者講習は試験制度に変化していくと思っています。一定の年齢で免許返納させるというのは日本の現状では考えにくく、将来的には試験場などで試験を受けて合格しないと更新できない仕組みになる可能性が高いでしょう。そうなると自己流運転を続けてきた高齢者は自然と脱落していきます。
だから、現在の年齢からルールに則った安全運転を心がける必要があるのです。そうすれば100歳を超えても運転ができるかもしれませんよ。
このマイインストラクターネットが、皆さん方ご家族世代も安全運転になるきっかけとなれば望外の幸せです。
管理人